現代物理学と般若心経

投稿者: | 2021年1月26日

私は仏教について全くの無知であるが、般若心経は聞いたことがある。実は般若心経には現代物理学の世界観が書かれていると知り、一度は読んでみようかと現代語訳を読んで驚いた。

人間は五感を通して世界が在ると認識しているが、それらは実は電磁波や分子などを検知するセンサの信号を、脳が処理しているだけだ、ということに気づいたときに感じる虚無感。この世界は本当に感じたままの存在なのか?実は全然違う構造をしているが、人類が地球上で自然淘汰に勝つために獲得した虚構に過ぎないのでは?と悟った時に感じる不安感とでもいう気持ち。これらは、あると信じている物が、本当に存在しているのか自信を失う例である。

また、量子力学を学んでいくと、現実世界はマクロにみると確固たる事物として見えるが、ミクロにみると常に揺らいでおり、確率的にしか分からないことを知る。これは量子力学が不完全だから予測できないのではなく、何かと相互干渉して観測されるまで、本当に確率でしかなく未確定な状態のままこの世にある、ということがベルの不等式の破れから実験的に証明されている。干渉して確率が収縮した時に、素粒子の位置や運動量のどちらかが確定する。(それでも両方同時には確定しない)

以上のような、一見あるように感じるけれども実は無い、逆に何も決まっていない状態から実体が突然現れ、両者は常に移り変わるという世界観を、般若心経では「色即是空、空即是色」で表しており、仏教の根幹を成す概念だそうである。ある意味、神や創造主のような絶対不変の存在すら否定しており、宗教というより元々は哲学に近いのかもしれない。現代物理学を学んでようやく意味が分かる「空(くう)」という概念だが、2000年くらい前のお坊さんが世界をよく観察して瞑想するだけで到達できていたことに驚く。昔は頭の良い人からお坊さんになっていたというのにも納得がいく。

創発という物理過程

形あるものはいつか無くなる、というのは分かりやすい。物は朽ちていくし、生物は死ぬ。この逆の過程、すなわち空から何か実体が現れる事もある、と般若心経は説いているのだが、なかなか具体例を挙げにくいかもしれない。現代物理学において、実証されている例から考えてみる。

自励振動

単純な要素が集まって動くことで何からの性質が現れることを、「創発、Emergence」と言い、生命の誕生は例として思いつくが、何故そんなことが起こるのか。その素過程は自励振動だと私は考えている。自励振動とは、外から揺らしてもいないのに勝手に振動する現象で、風になびく旗、発振回路、滑り軸受のホイルホワールなど、様々な例がある。エネルギーは連続的に供給されているが、振動加振はしていない。実は心臓の鼓動や脳波は電気化学的な自励振動である。自励振動には安定条件があり、風速であったり電圧であったり回転数であったり、ある量が閾値を超えると勝手に振動が始まる。生命が誕生する瞬間も同じようなもので、電気化学的な条件が整うと自励振動(=生命)が発生するのではないか。

カオス

カオスという言葉自体は「ごちゃごちゃで予測がつかない状況」として広く知られているが、数学的にはリアプノフ指数という量で判定される。この指数を使ってカオス状態は非カオス状態と明確に区別することが出来るため、これも一つの創発現象である。興味深いのは、ある集合体がカオス状態になったらその先はずっとカオスかというとそうではなく、ある条件では周期的な運動をする場合があり、同期現象と呼ばれる。蛍の同期現象で調べて頂くと動画が見られるが、多数の蛍が点滅するタイミングはカオスだが、だんだん揃ってきて群として点滅するようになる場合がある。多数のメトロノームの同期現象も有名である。これと同じような原理で、まるで存在しているように認識されているが、実はカオス状態のなかの同期現象であるような事象もあるのではないか。

自発的対称性の破れ

このメカニズムで創発している物は多い。南部博士がノーベル賞を受賞した時にこの言葉を知ったけれども、π中間子という素粒子の存在に関わっているし、実は自励振動の一つであるオイルホワールも、元を辿れば数学的に同じ原理で、軸受中心を底としたポテンシャルの形が、潤滑液膜力の軸偏心量rに対してr4の形になることで、中心から離れた位置に安定な軌道が出現する。π中間子もスカラー場の4乗で表されるポテンシャル関数を考えることで、その存在が説明されている。